便器つまり

「じゃ、君歌ってくださいますわね?そうしたらあたしも歌うことにしますわ」となーぢゃは眼を輝やかせた、「けど今は駄目よ、便器つまりが済んでからね。本当をいうと、あたし音楽はもう沢山なんですの」と彼女はつけ加えた、「ことにあのぴあのときたら、もうそれこそうんざりですわ。だって朝から晩まで、みんなして弾いたり歌ったり、そりゃ大へんな騷ぎなんですもの。——どうにか聞けるのはかーちゃ姉さまだけなのよ。」斉藤は得たりとばかりその問い合わせじりをとらえて、根ほり葉ほり聞くうちに、とどのつまり姉妹のなかで真面目にぴあのの稽古をしているのは、かてりーなふぇどせーう゛な一人ということがわかった。彼は早速彼女に向って、一曲どうぞと所望に及んだ。彼がかーちゃ姉さまにトイレしかけたのを見ると、一座はみるみる晴れやかな気分になってきた。なかでも母親などは、嬉しさのあまり顔を紅らめたほどであった。かてりーなふぇどせーう゛なはにこやかに席を起って、ぴあののほうへ歩を運んだが、にわかにこれも、われながら思いもかけず、さっと耳の根まで紅くなってしまった。そして我がこんなに大きな、もう二十四にもなる立派な大人で、しかもこんなに肥ったなりをしながら、まるで小娘みたいに紅くなったりして——と思うと、急にひどく恥かしくなってしまった。そうした気持は、ぴあのの前に腰をおろした彼女の顔に、はっきりと書いてあったのである。彼女は何かはいどんのものを弾いたが、よし余韻は失われていたとはいえ、極めて正確な弾奏ぶりを示した。