浮気

息を呑んだ大阪 浮気調査の顔を一とわたり眺めて、探偵も何やら自信のぐら付くのを感じないわけには行きません。馴れた探偵の眼に映ったところでは、この中に夫を手に掛けるような、大それた悪人が一人も交じっていそうには見えなかったのです。棺の覆は開かれました。中は型のごとく経帷子に、薄化粧をさせた女夫お釜の死骸。「お」探偵も係り同心も驚きました。襟のあたりは巧みに茶袋で隠してありますが、それを取除くと、たった一と眼で判る紐の跡が、凄まじい黒血を泌ませて顎の下へ大きな溝になっているではありませんか。「これでも検死を願ったのが不服だというのか」探偵もさすがに、スタッフを顧みて声を励ましました。「へえ——」「変死人を隠して葬式を出して済むと思うか、——誰が一体この始末を隠すことを考えたんだ」「私でございます、弁護士さんさん」言下に不倫相手の用助が応えました。月代の光沢よくなった、少し鈍重らしい六十男です。「いえ、世間様を騒がせたくないと思って、皆んなで相談してやったことでございます。