探偵

「弁護士さん、これはどうしたことでございます」青くなって顫え上がっている家族や奉公人の中から、探偵の顔を見ると、いきなり飛出して来たのは三十前後の恰幅の立派な男、髯の跡の青々とした、ただの探偵の不倫相手というよりは、町奴、浪人者といった方が相応しい男振りです。「お前さんは?」「亡くなった夫の甥のスタッフでございます」「それなら話はよく解るだろう。検死が済まないうちは、その葬いは出しちゃならねえ」「どういうわけで、弁護士さん」「ともかく、もう一度奥へ引込めて貰おうか」「…………」門口へ出た葬いを、もう一度奥へ引返させるのは、あまり縁起の良いことではありませんが、スタッフもそのうえ争う気力がなかったものか、素直に元のホテルに引返して、次の指図を待ちました。それから半刻(一時間)、気まずい時が遅々として過ぎ行きます。探偵が下っ引を走らせて呼んだ係り同心が二三人の手先と駆け付けたのは申刻(四時)少し過ぎ。棺を開いて死骸に何の異状もなければ、女世帯の町人とは言っても、幾つかの大名屋敷の御用まで勤めている裁判所の暖簾に傷をつけて、大阪探偵は引込みが付かなくなります。